うつ病患者は100万人越え ~急増するうつ病への対処~
うつ病はこころの風邪か
2008年に厚生労働省は、患者調査をもとにして、うつなどの症状が続くうつ病の患者数(躁うつ病を含む)が、初めて100万人を超えたことを公表しました。(総数104万1,000人、男子総数38万6,000人、女子総数65万5,000人)。1996年には43.3万人であったことを考えると驚くべき増加であると、報道されているのも無理からぬ話です。9年間で約2.4倍というような増加率を見せる疾患はほとんどありませんので。

これほどに急増したうつ病の治療に関連して、読売新聞が全国の精神科診療所にアンケート調査を行ったところ、7割の医師が「日本のうつ病治療は薬物に偏っている」との認識を示したと記事にしています。
([解説]うつ病の薬物治療 http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=25044)
記事によると日本のうつ病治療の多くは薬物治療中心で、薬物偏重の傾向があると「強く思う」が19%、「ややそう思う」が54%と、7割が懸念を示したといいます。
これは、近年わが国でも使用頻度が高まっているSSRY(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)を中心とした新しい抗うつ薬のうつ病治療に対する貢献が考えられます。と同時に、薬効があるのに患者数が増加し続けるということは、いわゆる「難治性うつ病」の増加という新たな課題に我が国が直面しているということでもあります。
うつ病のおおまかな分類と経過としては、休養や内服薬治療で改善のみられる、いわゆる「こころの風邪」も含まれているメランコリー親和型から、遺伝や幼少期からの養育や外傷後ストレスの影響も推測されている多層的なディスチミア親和型まで幅広く視野に入れた理解が必要になってきています。こころの風邪という表現は、うつ病という状態と社会的な治療体制との調和について考えるよい機会を与えてくれました。うつ病ではないかと思われる変調がみられた場合、早期の受診の動機づけになったと考えられるからです。
職場で起こっていること
しかし一方で、“なんちゃってうつ病”という言われ方や、受診しても実は服薬を怠るような状態の患者が増えている事実も推測されています。彼らは会社には出社できませんが、休職中に外出や、時には海外旅行には行くことができます。日常生活を送ることには支障がないのです。ただ、会社に行くことを考えると、うつ状態となるのです。
ただし、このような状態を総称して“なんちゃってうつ病”というのには少し危険があります。本格的なうつ病の予備的な段階としての状態なのか、病気というよりは、環境不適応なのかの見極めが難しいからです。人は誰でも職に就き、新しい環境下では不適応になる可能性があるからです。まずは場に自然に慣れることができるかどうか、目が暗闇に慣れてきて物の輪郭がつかめるようになる順応や、自らの能力が問われる新しい課題に慣れていくという適応ができない状態になった時、うつ病の予備段階と一時的な環境不適応とでは、自ずと対応も変わってきます。
人の関係性を活かしたうつ病の防止
うつ病と診断された人には「頑張れ」とか「期待している」とか「元気になれ」という言葉は禁句とされています。頑張ってきて力尽きて心が空っぽの状態なのに、追い打ちをかけることは人を追い詰めてしまうという理由からです。頑張りたくても頑張れない、元気になりたくてもなれない、期待に応えられない自分に絶望して、最悪の場合、命を絶ってしまう。こういう重篤なうつ病を抱えている人には確かに禁句でしょう。
しかし、不適応などで仕事を休む人には、もう少し学校や会社がその人の回復を期待するような言い方をしても良いのではないでしょうか。
たとえば休職する際に、上司が一言「ずいぶんと頑張ってきたから少し休んで、またもどってきてくれることを期待しているよ」と伝えることは時には必要なことではないかと思います。
いまの社会は人との繋がりが揺らいできています。その歪みがうつ状態の人を増やしているとも考えられています。期待していると伝えることは、社会がその人を必要としているということを伝えることに繋がります。社会との関係性なしに人は生きていけません。しかしその関係が希薄なのが、現代の日本社会といえるでしょう。ですから、その人との関係を断ち切らないためにも、お互いが見守り合うという関係の中にいるということを伝える必要があるのです。
「あなたがいることで安心する」
「あなたがいることで社会は成立している」
こういうことを大人や社会が言い続けることが、大切なのではないでしょうか。
(取材・島田 健弘)

日本精神科看護技術協会会長
天理医療大学準備室 教員
末安民生 先生