うつとうつ病のちがい 1
心の健康と体の健康は不可分
メンタルヘルスというと心の健康と訳しますが、健康を考える場合、心と身体は別なものではなくて密接につながっています。気分の落ち込みからうつの状態への最初の手がかりは頭重感とか、食欲が落ちるとか、睡眠障害といった身体的な反応です。ですから、うつ状態という病態が特別に独立して存在するのではなく、総合的なものとして捉えるべきだと思います。
今ではわが国でもうつ病は国民病という捉えられ方をし始めました。その過程ではうつ病は自殺とつながる重大な病気だと警鐘を鳴らしてくれました。ただ、かつて説明していた「うつ病は心の風邪だ」という捉え方は最近では少なくなりました。うつ病もほうっておくと重症化し、治療してもなかなか完治する、ということが難しい場合もあります。
うつの要因はひとつではない
私たちは日々の暮らしの中でさまざまな感情の振幅を経験します。給料が上がったり、受験に合格すれば嬉しいでしょうし、逆に給料が下がったり、受験に失敗したら落ち込むでしょう。落ち込んだ気分でため息をついたり、やる気がなくなり、食欲も落ちたり、眠れなくなる。このような一時的なうつ状態は、長かったり短かかったりの違いはあるものの、誰しも経験することです。うつ状態というのはある意味では健康な反応ともいえるのです。しかし、そのうつ状態が長く続き、睡眠障害、食欲不振などが激しくなり、長時間続くことでその人の生活行動パターンを壊し、セルフケアができない状態にまで陥ると、もううつ状態ではなくうつ病の領域に入ったと考えた方がよいでしょう。
男性でいえば50歳前後からの壮年期がひとつの危機です。この年頃は地位があがって責任が増したり、仕事環境の大きな変化を迎えます。また人生の残りの時間にも目が向きます。その少し前には子どもの成人前後で家族関係も変化を迎えます。さらには身体機能の変化が気になったり、自分の親の介護の問題もあります。これまでの人生を振り返らざるを得なくなる時期だといえるでしょう。壮年期は人の人生にとって実にさまざまな不安が交錯し集中する世代なんですね。うつ病の発症にはさまざまな要因が背景にあると考えた方が良いわけで、ある日、突然の発病というものではないんです。
「うつ状態」と「うつ病」とは
うつ状態
からだの自由がなく抑制された感じになるのですが、他人には見えにくい場合が多いです。自覚できることとしては、口数が減り、からだの動きが鈍くなった印象があります。俗に言う、気分が沈む、落ち込む、憂うつな気分だな、というものです。
チェックできることとしては、心身ともに疲れを感じ、休みのあとでも疲れが取れない。ちょっとしたことでのイライラ感がなかなか解消しないなどです。
身体的には、頭が重く、体がだるい。寝つきが悪い、眠れない。目覚めが悪い、なかなか起きられない、などでしょうか。
それに、本や新聞が読めない、ときには読んでも理解できないことに気づいたりします。
うつ病
表情の動きが無くなり、外見からも行動が抑制されているのがわかるようになることが多いです。何かしなくてはならないことがあるのに決断ができなくなります。
口が渇いたり、つばが出なくなったりしているのに自分では気づいていません。朝は気分が悪く、夕方になると比較的軽い状態になるなどの日内変動がおきることもあります。
「行き詰まり感」、「生きてゆけない」、「死ぬしかない」という深刻な事態が起こりうるのですが、そのことが他者に伝えられずに本人ひとりが苦しんでいることが多いです。特に社会的な地位のある人の中には、この苦しみを「笑顔」の下に包み隠せる場合があり、周囲が気づかないことが少なくないので気をつけたいです。
うつ病になるのを防ぐためにも、うつ状態での早期発見が大切
以前は努力の人、几帳面な性格の人がうつ状態になりやすいと言われていましたが、必ずしもそのような「病前性格」の人だけが危険性が高いというわけではないです。自分がどのようにストレスにさらされているのかを自覚できるかどうか。また、気分転換の方法、時間をどのようにしたら確保できるのかなど複合的にとらえていくことが大切です。まずはその人にあった休養が第一です。
(取材・島田 健弘)

日本精神科看護技術協会会長
天理医療大学準備室 教員
末安民生 先生