~心と体~ 知っておきたい心の健康

末安民生 先生

東日本大震災により被災された皆さまに謹んでお見舞い申し上げます。

震災は心にも傷を残します。被災による心の傷に、どんなケアが必要なのでしょうか。今回は2回連載で、私たちにできる心のケアについて、専門家にわかりやすく説明していただきます。

日本精神科看護技術協会会長
天理医療大学準備室 教員
末安民生 先生

第九章 東日本大震災 心のケア(2)~震災後の心の不安を解消する~

不安を解消するために、遠隔地に避難することも必要

震災から2ヵ月がたちましたが、いまだに福島原発事故は収束していません。東北地方の方々はもとより、浜岡原発の停止など、日本全体に原発に対する不安は高まっているといえるでしょう。震災の後、時間がたつにつれて人々の間には復興する目標が生まれます。しかし原発の放射能に対する不安は違います。いつ来るかわかりません。放射能はどういうものかわからなく、いつ人体に影響するのかわからないという得体のしれない怖さがあります。

image文部科学省 原子力安全課 原子力防災ネットワークによる原子力施設周辺のモニタリングデータ
http://www.bousai.ne.jp/vis/index.php
不十分な対応で将来がさらに悪くなるかもしれないという予期不安を抱えるのは非常にストレスになり、その不安が常態化すると恐怖が生まれます。水道水の汚染という情報があると水の買い占めが起こるのも同じことでしょう。モノがなくなる恐怖、生存そのものが脅かされる恐怖……、そういったものが積み重なると精神的にも逃げ場を失い辛くなります。

そこで予期不安の強い人、比較的自由に移動が可能な人は、安全だと思える場所まで避難することも必要だと思っています。

その時に、被災地のほうがもっと大変だから我慢しようというストッパーが働く人も多いでしょうが、東京にいなくてもできることはあります。避難できるならしたほうがいいのです。もし後ろめたさがあるのでしたら、身の安全を守るためということと地域の経済をよくするためと思ってみてはどうでしょうか。

自分を第一に考えないと自分の生命は救えない

家がなくなったり避難勧告を受けたわけではないのに見知らぬ土地に避難するということは、勇気がいることでしょう。生活基盤がないところで仕事も人間関係もつくっていくことになるのですから。しかし生命の危機というのは何事にも代えられない、仕事よりももっと重大な問題なのです。

とはいえ、このような考えはもっと社会全体に広がっていかないとなかなか言いづらいものです。不安が募って遠くの親戚の家に避難したいが上司に相談できず、悶々と苦しんでいる人も多いでしょう。本来であれば、社長や先生、上司といった人たちが主導して、悩みや不安を伝え、生命を守るために何が必要か話し合えるような環境をつくるべきなのです。

そもそも危機的な状況においては、自分の身の安全を守ることが第一優先なのです。その上で、周りの人の安全を考えるべきです。

自分の生命、健康を守るというのは当たり前のことなのです。生命や健康よりも学校や仕事を優先させるという社会に本当の自由な選択はなく、個人の気持ちに従って行動し、それが認められる社会になっていくことが生きづらさの強い社会からの転換になります。特に災害時に自分の気持ちに従って行動するということはワガママなことではありません。そうしないと自分を助けられないと思うことが必要です。

自分自身こそがもっとも守るべき生きる基盤である

精神的な病気が原因で自己表現や人とのつながり、仕事、暮らしが立ち行かなくなる人をよく目にします。もっとも考えなければいけないのは、根本的な生きる基盤は自分自身であるということです。自分の健康状態を安定的に保つことで、人とのつながりを持てるし、不安への対処も考えられます。そのため、私はこれまでも生きづらい社会や組織であれば、「自分に対する安心度」を高めるために転職することを勧めていました。

病気と災害は比べる次元が違うと思われるかもしれません。しかし生活しづらいことを隠さずに表現し、他人に気持ちを伝えるという意味においては実は同じなのです。

今回起こった災害は突発的な天災であるということ以上に、さまざまな問題が浮き彫りになりました。起こったことはとても不幸だったのですが、大事にしている人や自分の死、家族や友人・知人とのつながり、災害時の避難などの行動、日本のエネルギー政策……さまざまなことを考えるきっかけにもなったのではないでしょうか。

メンタルヘルスの基本は安心した生活基盤をつくることと言っていいと思います。今回はその生活基盤が自然のエネルギーで脅かされたと言えるでしょう。まずは安定した生活基盤を取り戻すこと。それがなによりも心の不安の解消につながることを忘れないでください。

(取材・島田 健弘)

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