~心と体~ 知っておきたい心の健康

末安民生 先生

社会の多様化や時代の急激な変化などにより、メンタルヘルスの状態を良く保つことは難しくなっています。また、ちょっと専門家に相談したいと思っても、気軽に医療機関に足を運ぶには抵抗がある方も多いようです。今回は、身近な話題となってきた心の健康について専門家にわかりやすく説明していただきます。

日本精神科看護技術協会会長
慶應義塾大学看護医療学部 准教授
末安民生 先生

第五章 会社や家庭で気にしたいシグナル

心の病チェックリスト

厚生労働相は健康診断でうつ病などの精神疾患に対する検査を義務づける方針を明らかにしました。労働安全衛生法の改正(または厚生労働省令の改正)により、2011年度からの実施を目指すとしています。また、他の省庁においても「うつ病」が産業に与える影響などについての検討がされているようです。

その背景には2008年度のうつ病を含む精神障害などの労災請求件数は927件(3年で41.3%増)、認定件数は269件(3年で111.8%増)と増加傾向にあり、早期発見・早期治療によって歯止めをかけたいという目的があります。

心の病の多くは早期発見によって悪化を防ぐことができます。早く治療を始めた患者さんほど、症状をこじらせずに回復を早めることができるといえます。そのため、「どこかいつもと違う状態が続いているな」と思ったら、要注意です。

では、どんな変化に気をつけたらいいのでしょうか?
いままでとは違う、要注意という場合の健康な時との比較のポイントを考えてみましょう。

今回はそのチェックリストを作成してみました。一緒に暮らす家族、仕事を共にする職場の人々、子どもと接する学校の先生や友人など、身近にいる人が深刻な心の病をこじれさせないように、「ちょっと最近、気になるな」と思う人がいたらこのチェックリストを活用してみてください。


【外見】

目立って痩せた
何をするのも億劫そうに見えることが多くなった
自分や他人の匂いに敏感になっているようだ
だるそうで、疲れて見えることが多くなった
服装や髪型など、身だしなみが異常に乱れている
ぼんやりしていることが多くなった
表情が乏しくなった
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【気分や感情】

憂うつそうにしていることが多い
笑わなくなった
些細なことで泣くようになった
小さなことを異常に気にするようになった
イライラしている様子をよく見せるようになった
いつもなら盛り上がるはずの話題に興味を示さなくなった
些細なことでひどく驚くようになった
人前で話すことに興味を示さなくなった
好きなテレビ番組を見ていても、集中しなくなった
電車や人ごみで、強い不安に襲われることがあるようだ
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【行動】

口数が減った
ブツブツとひとりごとを言うようになった
歯磨や洗顔などの動作が緩慢になった
清潔さへのこだわりが過剰になった、もしくは極端に配慮しなくなった
他人の視線を異常に気にするようになった
元気がよすぎて周囲の人が迷惑をこうむっている
話しかけても反応が鈍く、返答に時間がかかるようになった
疑り深くなった
家族や友人、会社の同僚からの誘いに応じなくなった
仕事を休みたがるようになった
やりなれた業務にもかかわらず、ミスを繰り返すようになった
遅刻や欠勤が多くなった
物事を決めるのに時間がかかるようになった
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【発言】

自分の空想をあたかも真実であるかのように話すようになった
明らかに嘘とわかる発言が多くなった
話に一貫性がなく、会話がまったく成立しない
将来を悲観する発言が多くなった
「死にたい」とつぶやくようになった
「つらい」「しんどい」「もうだめだ」という言葉が増えた
「会社が悪い」「会社に行きたくない」と、よく不満を口にするようになった
「周りから嫌われている」「みんなが自分の噂をしている」と訴えるようになった
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【睡眠や食事】

十分な睡眠がとれなくなっているようだ
眠れず、日中の生活に支障がでている
夜中、眠らずに激しく動き回っている
食事を取れない状態が続いているようだ
食べてすぐ嘔吐しているようだ
酒を飲まないと眠れないようだ

* チェックの数よりも、症状の変化や期間に注意を払いましょう。
* おかしいなと思ったら、周囲の人に相談するなど早期の対応を心がけましょう。

(引用、一部改変は末安)『大切な人の「こころの病」に気づく 今すぐできる問診票付/社団法人 日本精神科看護技術協会 末安民生(2010.11.12、朝日新聞出版)』

これらの項目はチェックが多い少ないにかかわらず、変化がたびたび繰り返される、2週間〜1ヵ月以上続いている場合は心の病の可能性を考えてください。その場合、本人に休養を取るよう促したり、専門の医療機関を受診するように進めてみることも必要になるでしょう。また、もし本人が受診を拒んだら、家族が相談に行くという方法もあります。

また、気をつけたいのはいくつかの項目にチェックが入ったとしても、それが平常値であるという人もいるということです。性格的にうつ傾向の人であれば口癖で「死にたい」などと日常的に口にすることもあり得ますし、愚痴をこぼすことも多いでしょう。

注意すべきは「これまでと違うような変化が続いたとき」「これまでもあった傾向だけれど、深刻度が深くなったとき」です。変化の見極めとして、前述の2週間〜1ヵ月という期間が目安のひとつになるでしょう。それだけの時間変調が続くということは「たまたま今日は機嫌が悪い」というわけではありません。そう気づいたら、早期の対応を心がけるようにしてください。

とはいえ、判断に迷ったら自分だけでは決めないようにして、できるだけその人を知っている人たちに相談しましょう。特に職場では、つき合っている時間に限りがありますから、家の様子などが分かりにくいですので決めつけないような聞き方でご本人と話してみましょう。

心の変調を早期に気づける仕組みづくりが求められる

うつ病などにつながる精神的ストレスの多くは人間関係の摩擦で生まれます。特に職場では気の合わない人とも仕事をしなければなりません。しかし、組織や仕事というのはそういうものだという認識を持つことも大切です。

大企業や役所などの異動の多い組織は、従業員全員が信頼関係をもって仕事をするということができないという前提で、組織の制度設計をしている面もあるのではないでしょうか。どうしても気の合わない同僚や上司とでも、「2年間耐えれば異動できる」と思えば、いまだけは一所懸命やろうと思えるかもしれませんから。

比喩的な表現ですが、人間の感情の器はそれぞれ量も形も違います。だから内面的な喜怒哀楽の量や形も同じではありえないと言えます。大変だなと思って助言をしたとしても、それが適切なコメントであるかは受け手しだいで、たいていは受け手にとってトンチンカンなアドバイスや慰めだったりします。さらにいえば、心のケアとして適切な言葉を投げかけるのは専門家でも難しいのです。得意不得意、専門分野があるといいますが、それも極論すれば、他人の心がわからないからです。ただ、これまでの経験と知識の蓄積があるから、より適切だろうと思える言葉を投げかけることができるのです。

だからこそ、特に管理職にある人は他人、部下、同僚の感情の器に敏感になってあげることが必要といえます。それは適切なコメントやアドバイスを言うことではなく、自分で異常や変調を感じたときに、それを相談できる雰囲気、仕組みづくりをするということです。つまり本人が心の異変を感じたときに、セルフケアやセフルコントロールできる環境をつくるということです。

たとえば、「実は趣味がなくて」とか「仕事以外にやりたいことがある」など、悩みや困っていることを自ら打ち明けることで、部下や同僚にも悩みやおかしいと思ったことを打ち明けやすい雰囲気を作り、上司から部下の立場に降りていく必要もあるでしょう。

基本的に信頼関係をもって仕事ができない職場——ビジネスライクな関係にならざるを得ない組織構造であればあるほど、部や課といった小さい単位でのメンタルケアの環境づくりが管理職のマネジメントのポイントになるでしょう。

正社員、非正規社員(派遣、パート、アルバイト、インターン)、上司、部下と現代の職場にはさまざまな立場の人たちが一緒に仕事をしています。彼らの心の状態にも管理職は気を配らなくてなならない時代になりました。また会社に余裕がないため、効率を追求するあまり、仕事に余裕や遊びがなくなっています。管理職の責任と負担は増すばかりで、最近は出世したくないという若者も少なくないと聞きます。

だからこそ、管理職も含めて、たまには自分らしさの一部ともいえる弱点や嫌いなことなどを知らせて、自分の気持ちを楽にするということをしてもいいのではないでしょうか。

(取材・島田 健弘)

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