
社会の多様化や時代の急激な変化などにより、メンタルヘルスの状態を良く保つことは難しくなっています。また、ちょっと専門家に相談したいと思っても、気軽に医療機関に足を運ぶには抵抗がある方も多いようです。今回は、身近な話題となってきた心の健康について専門家にわかりやすく説明していただきます。
日本精神科看護技術協会会長
天理医療大学準備室 教員
末安民生 先生
人生の約3分の1は眠っている時間とされています。脳は起きている間はずっと活動しているので、眠ることでしか休息できません。もちろん厳密に言えば、寝ている間も心臓と同じで「休息のための活動」をしています。したがって「活動+休むための活動=休めない脳」というわけで、「いかに上手く休ませるか」というのは精神的な意味だけではなく、身体的に重要な課題です。睡眠が十分にとれないということは「万病のもと」なのです。
気がかりや悩みがあればもちろんのこと、緊張したり、落ち込んだり、興奮したりすれば、なかなか寝つけなくなることは誰にでもあることです。その意味では若くて健康そのものに見える人でも睡眠不足に陥る危険性は同じです。また、「老人になると睡眠時間が短くても平気だ」と思われていますが、実は睡眠ペースの乱れが常態化しているということなのです。
眠りは貯められないので回復にはそれなりの時間が必要です。長期にわたって十分な睡眠がとれない状況が続いているのであれば、一時的な睡眠不足ではなく「睡眠障害」の危険性があります。
一時的な環境の変化や心理的ストレスで数日間眠れないものは「一過性不眠」といいます。「一過性不眠」が1~3週間続くと「短期不眠」というようになります。しかし、これらは原因が解決すると不眠も改善されるので、専門的な治療がなくても回復していきます。
しかし不眠が1ヵ月以上続く「長期不眠」となると、ある程度の自然な身体的変化に基づく老年期や更年期だけではなく、内科的疾患やうつ病などの精神的疾患が原因である可能性も考えなくてはいけません。
厚生労働省の調査によると、日本では、一般成人のうち不眠に悩む人は約21%、日中の眠気を自覚している人は約15%に達しています。成人の5人に1人−1,500万~2,000万人の人が不眠に悩んでいると推計され、睡眠障害は国民病とまでいわれることもあります。
睡眠障害は、眠れなくなる症状だけを指すものではありません。昼間眠くてしかたないという状態や、睡眠中に起きてくる病的な運動や行動、睡眠のリズムが乱れて戻せない状態などがあります。
睡眠不足が気になるタイプの方とそうではない方がいますが、どちらにしても、環境や生活習慣によるもの、精神的・身体的な病気からくるもの、薬によって引き起こされるものなど、さまざまな原因が考えられます。
不眠症のタイプ
- 入眠困難
- 布団に入ってもなかなか寝付けないタイプ
- 中途覚醒
- 夜中に何度も目が覚めてしまい、再び寝付くのが難しいタイプ
- 早朝覚醒
- 朝早く目覚めてしまい、その後も眠れないタイプ
- 熟眠障害
- 眠りが浅く、睡眠時間のわりに熟睡感が得られないタイプ
精神的ストレスによって起こるさまざまな問題は、一時的なことであれば放っておいてもいつの間にか消えてしまったり、気にもならなくなるでしょう。しかし長期にわたって続くというのは、自覚しにくいストレス下にい続けているからかもしれません。短期的な睡眠障害であれば、対症療法的にぬるめのお風呂に入るとか、ほどほどのアルコールを飲むなどして、入眠できるようになるかもしれません。しかしそれは、根本的な解決方法ではありません。
うつ病による不眠や不眠症の診断がついても効果的な薬はあります。しかし、いくら薬で一時的に不眠が改善しても、基本的な問題の解決や、その元となる人的環境が変わらない限り、さらに深刻な症状として顕在化することもあり得ます。
私は精神的な健康の基本は「長く安心して暮らせる生活基盤を持つこと」と、これまで何度も繰り返しお伝えしてきました。心と体はつながっています。体も社会とつながっています。社会とのつながりの歪みが、やがて心に決定的な悪影響をもたらすようになっても、それは当然といえるのです。
ですから、精神的な安定を得るために自分にとっての社会的環境をよくすることを考えるのは自然なことです。薬で症状を抑える、一時的な安眠を得ることも必要ですが、なぜそういうことになったのか、時には友人や専門家の手も借りながら、じっくりと考えてみる事も必要です。
医師に相談する前にできるのは、周囲の親しい人に相談するということです。睡眠の変調を経験したことのある人は意外に多いからです。
ストレスのシグナルは精神的なこととともに身体的な変化としてのサインでもありますから、いつもより少し早めに横になり、自分のからだに聞いてみてはどうでしょうか。
そして、自分に語りかける。たとえば「もっと楽になれたらいいね」と。それだけで気持ちがスッキリすることもありますから。
(取材・島田 健弘)
次回のテーマは、これからの時代を生きる ~精神科看護の視点から~です。
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