最新の糖尿病事情

佐倉宏 先生

糖尿病シリーズ第二弾は「最新の糖尿病事情」をテーマにお届けします。日本と世界の傾向や予防法、治療法など、第一線の専門家にわかりやすく説明していただきます。

東京女子医科大学
糖尿病センター内科 講師
佐倉宏 先生

第二章 私は予備軍? それともセーフ?

現代日本人のほとんどが予備軍寸前

糖尿病は、一般的に言われているように生活習慣が大きく関係しています。しかし、現代人のほとんどは、生活習慣が良いとは言えません。人間が1日に摂取する理想的なエネルギーは1400~1800kcalと言われています。ところが、現代人は平均で2200~2300kcalも摂取しているのです。

運動も同様です。例えば、1日に少なくとも10000歩程度は歩くことが理想ですが、実際は平均6000~7000歩くらいしか歩いていません。もちろん、なかには生活習慣に気を配り、適切な食事量や運動を心がけている人もいます。しかしながら、現代生活は車やエスカレーターなどの多用や食事の西洋化により、たいていの人は生活習慣が悪いと言わざるを得ないのです。

糖尿病予備軍という言葉は医学の世界では使われません。それにあたる言葉として「耐糖能異常」「耐糖能障害」があります。これは、糖の代謝は正常ではないものの、糖尿病とまではいかない範囲を指します。糖尿病を診断する指標のひとつである75gブドウ糖付加試験においては、正常な人だと空腹時血糖値が110mg/dl未満、かつ2時間後の血糖値が140mg/dl未満です。糖尿病と診断されるのは、空腹時に126mg/dl以上、または2時間後が200mg/dl以上。そのどちらも当てはまらないのが耐糖能異常なのです。

メタボリックシンドロームとの関係

最近の研究では、空腹時血糖が110mg/dlでも高すぎると考えられています。空腹時血糖が100mg/dlを超えていると、生活習慣の見直しが必要です。また、空腹時の血糖が正常でも、食後の血糖が高くなるようだと注意しなければなりません。多くの研究から、食後の血糖値が動脈硬化に大きく関係し、心筋梗塞、脳梗塞にいたる可能性が高いという結果が出ています。

耐糖能異常は、症状がまったくないために発見するには検査が必要です。職場の検診や学校の検診、自治体の検診などを利用して、早めに対応できるようにしたいところです。何か異常が見つかってもそのままほうっておくと、糖尿病になってしまうリスクが非常に高まります。

さらに、最近よく聞くメタボリックシンドロームとも、耐糖能異常は関係してきます。メタボリックシンドロームは内臓脂肪型肥満が根底にあり、次第に高血圧、高脂血症、そして耐糖能異常が現れてきます。それぞれの異常の程度は軽くても、こうした症状は一人の人に集まりやすく、動脈硬化が進行しやすくなってしまうのです。

メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の状況 (20歳以上)

予備軍に入らないために

糖尿病予備軍になる心配を回避するには、まず肥満に気をつけなくてはいけません。とくに、内臓脂肪でおなかが出てくると要注意です。男性は腹囲85cm以上、女性が90cm以上の場合、生活習慣や運動不足、過食、ストレスといった要因をなくしていく必要があります。あとは、自分の体重を知ることも重要です。どんな食事をすれば、どう体重が変動するかまでわかるとベストです。自分の生活パターンと体重の関係がわかれば、体重はコントロールしやすくなります。

生活の要である食事には、毎日少しでも気を配ることが重要です。朝食を食べないと、昼食、夕食の量が多くなって血糖が上昇してしまいますし、早食いも過食や食後の血糖を急に上げる原因にもなります。朝昼夕の三食を、ゆっくりと食べることを心がけましょう。ゆっくり食べることで満腹感が得られやすくなり、カロリーを抑えることができます。

運動に関してもジョギングや筋力トレーニングまでする必要はありません。歩くことを中心とした運動を、週3回以上行うだけでずいぶん違ってきます。もちろん毎日運動するのが一番で、1日10000歩以上歩く、食後30分程度は体を動かす、なるべく階段を使うなど、ちょっとした努力の積み重ねで、血糖値はいい方向に向かうはずです。

最近は10代でも糖尿病になってしまう人がいます。遺伝的な原因もありますが、過食・運動不足・肥満などの生活習慣の悪さが大きな原因です。若いうちに糖尿病になると、30代で動脈硬化が進展してしまうことも多いため、早い段階で生活習慣を改善し、予備軍、さらには正常に戻る努力をしましょう。

日本人は欧米人に比べ、そもそも糖尿病になりやすい体質ですので、それほど太っていなくても注意しましょう。平均的な生活でも糖尿病予備軍、糖尿病になる可能性があることを、しっかりと覚えておいてほしいものです。

(取材・子川 智)

次回のテーマは、糖尿病の検査についてです。

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