糖尿病編

志和利彦 先生

健康を維持するためには、自分の生活習慣や年齢、体力などと向き合うことが大切です。ここでは第一線の専門家にわかりやすく説明していただきます。

日本医科大学眼科学教室
診療教授 志和利彦 先生

第八章 怖いのは合併症 その4<目への影響>

自覚症状の少ない網膜症の進行

糖尿病という名前は、つい尿に糖が出るだけの病気とイメージしてしまいがちです。ですが、実際は全身の血管が冒される危険な血管障害だということを忘れてはいけません。目の網膜の上には細い毛細血管が多く集まっています。糖尿病は当然、この網膜上の毛細血管にも影響を与えます。そのため、糖尿病性網膜症が発症するのです。

高血糖のまま放置しておくと、網膜の毛細血管がもろくなるとともに、小さなコブができてきます。やがて出血も生じます。こうした出血点や白斑が現れる時期を単純網膜症と呼びます。さらに進行すると、白斑の数が増え、大小のコブが数珠状にできはじめます。また、血管が破れた際の出血も大きくなってきます。ここまで進行すると前増殖網膜症と呼ばれるようになります。網膜症で恐ろしいのは、この段階になっても自覚症状が全くでないことです。

出血しやすい新生血管 増殖網膜症

それでも高血糖を放置してしまうと、増殖網膜症と呼ばれる段階に病状は進行します。増殖網膜症は、毛細血管がうまく機能しなくなり酸素不足となった網膜上に、非常にもろい新生血管ができている状態です。この新生血管が衝撃や血圧の上昇によって破れて出血すると、眼底出血や硝子体出血を起こすのです。この時期になってはじめて、視力低下などの自覚症状が現れ始めます。

新生血管を生ずるようになるのは、糖尿病と診断されてから少なくとも10年以上が経過しているといわれます。増殖網膜症になってしまうと失明の危険性が非常に高くなります。ここまで病状を進行させないためにも、糖尿病と診断されたら必ず、定期的に眼科に通うことが重要です。目の病気は内科では発見できません。

糖尿病性網膜症の治療法

治療法としては、血糖のコントロールをしっかり行うことが大前提です。血糖コントロールを行いながら、眼科では蛍光眼底撮影を行い、新生血管をできにくくするための最初の切り札である光凝固療法(レーザー治療)を行います。もっと病状が進行した増殖網膜症の場合は、硝子体手術が必要になる場合もあります。

糖尿病性網膜症で気をつけなければいけないことは、内科的な治療が順調に行われていても、目の病気は進行しているということです。血糖コントロールがうまくいっていても油断してはいけません。データとして血糖値が下がっても、血管障害が根本的に治っているわけではないのです。

また、かなり重度の糖尿病の場合、急激な血糖コントロールが網膜症を悪化させる可能性があります。ただ、これはかなり進行が進んだ糖尿病の場合で、目を犠牲にしても命を守る必要がでていると考えてもいいでしょう。さらに糖尿病は、有効な治療法がいまだ見つかっていない黄斑症を引き起こすこともあるので注意が必要です。

自覚症状がなくても検査を受けることが大切

糖尿病性網膜症は自覚症状が全くないのがやっかいなところです。眼底検査はちょっとした症状でも行うことができるので、普段は目薬をさすだけですませているドライアイの症状や、目のかゆみなどでも、あえて眼科で診てもらい検査を受けるのもいいでしょう。眼科の検査をきっかけに糖尿病が発覚することもあります。ただ、コンタクトレンズを専門に扱っているクリニックでは検査が難しい場合もあるので、総合病院等の検査設備の整った眼科で診てもらうようにしましょう。

糖尿病と診断されても、薬を使えば治ると考えるのはよくありません。糖尿病の患者さんは、食事や運動といった糖尿病治療で一番大切な部分をないがしろにしてしまいがちです。まずは、ライフスタイルを変えるということを考える必要があります。それが糖尿病治療の基本なのです。

(取材・子川 智)

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