糖尿病編

片山茂裕 先生

健康を維持するためには、自分の生活習慣や年齢、体力などと向き合うことが大切です。ここでは第一線の専門家にわかりやすく説明していただきます。

埼玉医科大学内科学(内分泌・糖尿病内科部門)
教授 片山茂裕 先生

第五章 怖いのは合併症 その1<糖尿病性腎症>

糖尿病がなぜ腎症を引き起こすのか

腎臓病が進行した場合の最後の治療法は人工透析治療です。人工透析は1週間に3度、毎回半日かけて行わねばならない大変な治療です。全国で人工透析治療を受けている人の数は、2003年のデータで約24万人。そのなかで、糖尿病に起因する糖尿病性腎症患者は7万人近くで、全体の30%近くを占めています。

糸球体なぜ、糖尿病が腎症に関係してくるのでしょうか。それは血管への影響に原因があります。腎臓には糸球体という細小血管がループ状に形成された、血液を濾過する装置が1つの肝臓に100万個近く存在しています。糸球体へ血液を送り込む輸入細動脈、濾過された血液を外に送り出す輸出細動脈は、糖尿病によって血糖や血圧が高くなると異常をきたすことが多く、濾過機能を低下させます。

また、糸球体基底膜も厚くなり、血液の濾過が正常に行えなくなります。さらには、ホルモンや成長因子の異常により、糸球体内の細小血管間にあるメサンギウム細胞の機能も低下します。最近では、高血糖によって糸球体の足突起にある、老廃物の濾し方を調節するタンパクがうまく作れなくなったり、細胞が死んだ隙間からタンパク質が漏れ出すこともわかってきています。
糖尿病は、腎臓にさまざまな障害を及ぼす恐ろしい要因なのです。

糖尿病性腎症の進行

糖尿病性腎症は、下の図のように第1期から第5期まで大きく分けることができます。

病期 臨床的特徴 病理学的特徴
(参考所見)
備考
(提唱されている治療法)
蛋白尿
(アルブミン)
糸球体濾過率
第1期
(腎症前期)
正常 正常ときに高値 びまん性病変:なし~軽度 血糖コントロール
第2期
(早期腎症)
微量アルブミン尿 正常ときに高値 びまん性病変:軽度~中等度
結節性病変:ときに存在
厳格な血糖コントロール
降圧治療
第3期-A
(顕性腎症前期)
持続性蛋白尿 ほぼ正常 びまん性病変:中等度
結節性病変:多くは存在
厳格な血糖コントロール
降圧治療・蛋白制限食
第3期-B
(顕性腎症後期)
持続性蛋白尿 低下 びまん性病変:高度
結節性病変:多くは存在
降圧治療・低蛋白食
第4期
(腎不全期)
持続性蛋白尿 著明低下
(血清クレアチニン上昇)
末期腎症 降圧治療・低蛋白食
透析治療法導入
第5期
(透析療法期)
透析療法中 透析療法・腎移植

腎症の症状で特徴的なのはタンパク尿です。腎症前期段階では尿からタンパク質は検出されませんが、それでも腎機能障害は進行しています。早期腎症の第2期に入ると微量のアルブミン(タンパク質の一種)が尿に含まれるようになり、腎症はかなり進行していることになります。 “微量”という言葉で安心せずに、すぐに適切な治療に入らなければなりません。

早期腎症からさらに進行したものが顕性腎症です。1日に1g以上のタンパク質が尿から検出される頃になると第3期-B(顕性腎症後期)と呼ばれます。3.5gを超える頃には、体のむくみが見られるようになり、貧血も頻繁に起こります。ネフローゼ症候群と呼ばれるこうした症状は、腎症が悪化しているシグナルともいえるものです。それを過ぎると末期腎症である腎不全期、そして尿毒症へと進行していきます。

遺伝的なものもありますが、最終的に糖尿病患者の20~30%が、腎症にかかるといわれています。高血圧は腎機能低下を招き、それがさらに高血圧を生むという悪循環に陥るため、心筋梗塞や脳卒中を引き起こす可能性も高くなります。

早期発見と治療

腎症が進行し、透析療法期に入ってしまうと、一般的な日常生活を送ることは難しくなります。そうならないためには、早期発見と適切な治療が第一です。

早期発見には、定期的な尿検査が必要です。尿検査でアルブミンやタンパクを測定し、血中クレアチン濃度や尿素窒素を測定することで、腎症の進行状態や適切な治療法を見つけ出すことができます。糖尿病と診断された人は、ひと月に一度、少なくとも数ヶ月に一度は定期的に尿検査を行いましょう。糖尿病患者の方なら尿検査に健康保険が適用されるので、担当医から言われずとも自発的に定期的な尿検査を行うようにしてください。

治療においては、血糖コントロールと血圧管理が欠かせません。現在では、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)や、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)といった降圧薬があります。これらの薬とカルシウム拮抗薬や利尿薬をうまく併用すれば、尿のアルブミン量やタンパク質の量が減ることがわかってきました。

また、食事療法も腎症の進行を抑えるためには不可欠な要素です。腎臓病の食事療法ではタンパク質を抑えるものになり、糖尿病食とは異なるものになります。顕性腎症の人は体重1kgあたり0.8~0.6g/日程度の低タンパク食が理想です。

血糖、血圧を下げ、低タンパクを心がけ、コレステロールが高ければそれも下げる。これら4つのポイントをしっかりと行うトータルケアが、糖尿病性腎症の治療においても重要だといえるでしょう。

(取材・子川 智)

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