糖尿病編

佐々木淳 先生

健康を維持するためには、自分の生活習慣や年齢、体力などと向き合うことが大切です。ここでは第一線の専門家にわかりやすく説明していただきます。

国際医療福祉大学大学院 臨床試験研究分野
教授 佐々木淳 先生

第四章 糖尿病と予備軍のための生活改善“運動編(1)”

糖尿病と運動不足の関係

糖尿病は、体質に過食や偏食、運動不足、ストレスといった現代人の生活習慣が加わって発症します。運動不足は糖尿病を発症させる大きな原因なのです。糖尿病に対する投薬治療やインスリン注射は対処療法でしかありません。それに比べ、運動療法は食事療法とともに、糖尿病を根本から治す治療法だと言えるでしょう。14年間にわたり、運動をしている人としていない人で糖尿病の発症率を調べた疫学調査(1994年University of Pennsylvania Alumni Health Study, Helmrich SP et al.)によると、1週間に2000kcal分、余暇に運動をしていた人は、ほとんど運動をしていない人に比べて24%も糖尿病の発症が抑えられました。

運動不足から糖尿病を引き起こす大きな要因は肥満です。それも、女性に多く見られる、お尻から足にかけて皮下脂肪がつく“洋ナシ型”ではなく、内蔵肥満によってお腹が出る“リンゴ型”の肥満に気をつけなければいけません。

肥満じゃなくても糖尿病に?

一昔前、脂肪細胞はエネルギーの貯蔵庫としか考えられていませんでした。ところが、脂肪細胞からも多くのホルモン物質などが出て、生命活動を調整しているということが、最近の研究でわかってきました。なかでも「遊離脂肪酸」は肥満、糖尿病に大きく関係しています。遊離脂肪酸は脂肪細胞のなかの中性脂肪が溶けて出てくる物質です。これが燃えてエネルギーを作るのですが、毒性が高く、血液中に多く含まれていると、細胞に浸透してインスリンの効きを悪くします。
さらに、脂肪細胞からはもうひとつ、「TNFα」という物質も出ます。「TNFα」もインスリンの作用を抑えてしまいます。遊離脂肪酸とTNFα、この2つが増えるとインスリンの抵抗性が高まり、糖尿病になってしまうのです。

注意したいのは、肥満でなくても、運動不足そのものが直接インスリンの効きを悪くするケースです。体重の50%近くを占める筋肉は、運動する際に糖やインスリンを多く使います。その筋肉が動かなければ、糖も使われなくなり、インスリンも使われなくなるというわけです。マイカーで通勤してデスクワークをこなし、家に帰っても風呂に入って寝るだけ、といった生活スタイルの人は、非常に糖尿病になりやすいと言えそうです。

どのような運動をすればいいか

運動する際に気をつけたい点は3つあります。ひとつは運動の「強度」、もうひとつが運動の「種類」、そして運動する「時間」です。

運動の強度
なかでも、もっとも重要なのが運動の強度です。一般的に効果的と言われているのは軽い有酸素運動で、あらゆる病気を予防するためのものとして世界的に認められています。強い運動では、逆に心筋梗塞になってしまうようなリスクがあります。また、強い運動は人間の体にほとんど蓄えられていない糖を使うため、長時間続けることはできません。その上、肝心の脂肪にあまり影響しないのです。軽い運動であれは効率良く、脂肪を燃焼して使うことができます。
運動の種類
運動の種類は、なるべく全身の筋肉を使い、長時間続けられる運動がベストでしょう。水泳やダンスなどでも構いませんが、おすすめしたいのはウォーキングです。自分ひとりで好きな時に、好きな場所でできますし、お金もかかりません。寒い時や暑い時は、デパートや地下街など屋内を歩くのもいいでしょう。わざわざ屋外で行う必要はありません。
運動時間
運動時間は、約20分以上運動すれば効率よく脂肪を燃焼できると言われています。WHO(世界保健機構)の指標では毎日30分やるのが良いとされ、これだけで世界中で多くの人が助かると言われています。しかし、それより短い時間だからといって効果がないわけではありません。極端な話をすれば1~2分でも体を動かすことが大切なのです。

ウォーキング時のエネルギー燃焼比率安静時のエネルギーの約6割は脂肪を燃やして作られています。運動を始めると糖の比率が高くなりますが、それを使い切ると脂肪が燃えはじめます。一般的に約20分を超えたところから脂肪が主に使われ始めるのですが、5~10分でも脂肪は燃えているのです。

左図:ウォーキング時のエネルギー燃焼比率

(取材・子川 智)

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