糖尿病編

津田謹輔 先生

健康を維持するためには、自分の生活習慣や年齢、体力などと向き合うことが大切です。ここでは第一線の専門家にわかりやすく説明していただきます。

京都大学大学院 人間・環境学研究科
教授 津田謹輔 先生

第三章 糖尿病と予備軍のための生活改善“食事編(1)”

糖尿病増加の原因は動物性脂肪

高度成長期以降、急激に増えてきた糖尿病は、平成の国民病とも言われています。なぜ、こんなにも増えてきたのでしょうか。

糖尿病になる原因は、遺伝的な要因と環境要因が複雑にからみあっています。遺伝要因については、ある単一遺伝子の異常による糖尿病も見つかっていますが、ほとんどが多因子遺伝で、いくつかの遺伝子の異常が重なり合うことで糖尿病になります。今のところ、それぞれの遺伝子の関連性は研究中で、はっきりとはわかっていません。ただ、遺伝子そのものが急激に変化してきたとは考えられないので、環境要因が大きく変わってきたことが、糖尿病の増加につながっていると考えられています。

環境要因の重要な要素のひとつが食事です。日本人の食生活は、昔に比べるとかなり変化しています。とはいっても、摂取するエネルギー量や食べる量はそれほど変わっていません。大きく変化しているのは脂肪摂取量です。日本人は、平安時代から戦後まもなくまで、1800~2100 kcalと摂取エネルギーはそれ程変化していませんが、注目すべきは非常に脂肪の少ない食事を続けてきたことです。昔の食事の脂肪エネルギー比(摂取カロリーに対する脂肪の割合)は10%程度。ところが、高度成長期に入ると、脂肪エネルギー比は約2倍近くになりました。また、摂取する脂肪の種類も変わってきて、穀物や魚が減り、動物の肉や乳製品など、動物性脂肪を多く摂るようになっています。

日本人に糖尿病が多いワケ

動物性脂肪がなぜ糖尿病を引き起こしやすいのかといえば、インスリンに関わってくるからです。脂肪で問題になるのは、インスリンの作用を低下させる「抵抗性」にあります。インスリンの分泌を一番促進するものは炭水化物。脂肪は、単独で摂ってもインスリンには大きな影響を与えません。炭水化物の分泌促進とは比べ物になりません。ところが、脂肪を多く摂りすぎることで、インスリン抵抗性の状態が引き起こされてしまいます。

インスリン抵抗性が生じた場合、体は血糖維持のため、さらにインスリンを分泌して、低下した血糖維持機能をカバーしようとします。これは、「代償性のインスリン分泌」と呼ばれるものです。しかし、日本人の場合は、欧米人に比べてインスリン分泌の予備量が少ない。そのため、量が足らずにインスリンの働きが不足し、糖尿病になってしまうというわけです。また、インスリンには脂肪を作る働きもあります。欧米人はインスリンを多く分泌し、血糖を維持できる代わりに高度な肥満になりやすい。ですが、日本人の場合は少し太った後、すぐに糖尿病になって痩せてしまうのです。

これには、民族性も関係しているかもしれません。欧米人は、牧畜を中心とした民族で、肉や乳製品など、食事のなかの脂分の量が圧倒的に多いにも関わらず、糖尿病は増えていません。昔から動物性脂肪を多く摂取していたため、常に代償性インスリン分泌を行っていたと考えられます。ですが、米や魚を主に食べてきた農耕民族の日本人は、それほど動物性脂肪を多く摂ってこなかったにも関わらず、高度成長期以降、欧米スタイルの食生活に急激にシフトしたため、代償性インスリンの分泌が必要になってきました。この環境の変化に、体が対応しきれていないのです。

こんな人が糖尿病予備軍

糖尿病を予防するためにはまず、太らないようにすることが大切です。そのために注意したいことのひとつが食事時間。同じ量を食べていても、ホルモンの関係で食事摂取の時間が遅いほうが太りやすくなります。22時以降に食事をするのはやめたほうがいいでしょう。それと、一度の食事量も気をつけたいところです。特に、朝食を抜きがちな人は、食事の間隔があき、一食を多く食べがちです。食事の間隔があくとエネルギーを吸収しやすくなるため、これも太る原因になります。

お酒を飲む人が糖尿病になりやすいと言われますが、実はアルコールだけを摂取しても、さほど糖尿病には関係してきません。これは、息や尿に分解されて体に溜まらないためです。それよりも、お酒を飲みながら何を食べるのかが重要です。飲む一方であまり食べない人は、栄養素が不足しがちですし、飲みながら食べる人は、こってりとした食事が多くなりやすいのです。このような食生活が普通になっていて、さらに口渇、多飲、多尿の気がある人は、一度、診断してもらったほうがいいでしょう。血糖が高いと、尿の浸透圧が上がり、腎臓はそれを薄めて体内に出そうとするため、尿が増えて体の水分が欠乏しがちになるのです。

糖尿病の怖さは自覚症状がほとんどないことです。早めの診断を心がけて、食生活の改善を行うことが重要だと言えるでしょう。

(取材・子川 智)

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