糖尿病編

田嶼尚子 先生

健康を維持するためには、自分の生活習慣や年齢、体力などと向き合うことが大切です。ここでは第一線の専門家にわかりやすく説明していただきます。

東京慈恵医科大学 内科学講座
糖尿病・代謝・内分泌内科 主任教授
田嶼尚子 先生

第十一章 血糖値のコントロールについて

自覚症状のないまま進行する恐ろしい高血糖

血液中に含まれるブドウ糖(血糖)が多くなります。糖尿病になると、ブドウ糖は、人間が活動するためのエネルギー源として必要不可欠なものです。健康な人であればすい臓から供給されるインスリンの働きによって、血糖値は一定に保たれます。ところが、インスリンの分泌量が少なくなったり、正常に分泌されなくなると、血糖値が高くなり、体にさまざまな悪影響が出ます。これが糖尿病の始まりです。糖尿病は、命にかかわる合併症を引き起こします。なかでも、糖尿病の三大合併症と呼ばれる「腎症」「神経障害」「網膜症」は、患うと日常生活もままならず、命を落としてしまうこともあります。また、動脈硬化による「心筋梗塞」「脳梗塞」も、血糖が深く関係しています。

糖尿病の危険が広く認知されつつある今なお、糖尿病患者の数は年々増え続けています。これは、糖尿病が自覚症状のないまま進行することも要因のひとつと考えられます。合併症が発症するのは、糖尿病がかなり進行してからですが、急に血糖が高くなると、早い段階から神経障害や血管障害が起こる危険性があります。こうしたことからも、自覚障害が出る前から血糖に関心を持ち、そのコントロールを意識しておくことが重要です 。

注意が必要な「境界型」の血糖値

普段から気をつけておいてほしいのは、ブドウ糖負荷試験において「境界型」に分類される血糖値の人たちです。ここに分類されるのがいわゆる糖尿病予備軍と呼ばれる人たちで、自覚症状はほとんどありません。糖尿病とは診断されませんが、動脈硬化などを発症するリスクを常に抱えていることを認識しておく必要があります。

ブドウ糖負荷試験の判定基準

糖尿病は一生付き合わなければならない病気と言われますが、境界型に位置する予備軍であれば、生活習慣の改善により、正常な、血糖コントロール状態に戻すことも可能です。そのためにまず必要なのは、食事の見直しと運動です。

とは言え、難しいことを始めるわけではなく、日々の生活のなかで少し気をつければいいのです。まず、食事は腹八分目にし、野菜を多くとり、食物繊維を多く摂取する食生活をこころがけましょう。脂っぽいものや動物性蛋白質ばかり食べるなどの偏食は、血糖を高くするだけでなく、動脈硬化をすすめますので注意してください。

また、体を動かす習慣を付けることも大切です。なにか新しいスポーツを始めるということではなく、早足の歩行など少し汗ばむ程度の運動を毎日継続することが重要です。運動を継続して行うことで少しずつ筋繊維が太くなり、筋肉中を流れる血液の量も多くなってきます。それにより、血液中の糖を燃えやすい状態にできます。

血糖値の測定は確度の高い方法で

血糖の異常を早めに察知するには、会社などにおける定期検診を利用するのもいいでしょう。1回の測定で少し気になる点があったなら、病院等で再度、検査を受けることをおすすめします。血糖値は日内変動が案外の大きいものです。空腹時や食後など、どんな時に血糖が高くなるのか、その理由は何か、などの見極めも大切です。

今では、簡易血糖測定器が1万円程度で入手でき、自宅でも血糖値を測定することができます。ただ、自己判断でやみくもに測るだけではあまり役に立ちません。必ず医師に相談し、その指導のもとに正しく測定し、その結果を生活習慣の改善に反映させて下さい。糖尿病と診断された場合、薬を使えば血糖値を下げることができます。しかし、薬は最後の手段です。血糖が高くなっていることに早めに気づき、食事と運動で正常に戻す努力をはじめて下さい。そうすれば動脈硬化による狭心症、心筋梗塞、脳卒中のリスクも下げることができます。

(取材・子川 智)

次回より、新シリーズ「最新の糖尿病事情」が始まります。

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