糖尿病編

及川眞一 先生

健康を維持するためには、自分の生活習慣や年齢、体力などと向き合うことが大切です。ここでは第一線の専門家にわかりやすく説明していただきます。

日本医科大学 第三内科内分泌代謝
教授 及川眞一 先生

第一章 糖尿病とはどんな病気なの?

糖尿病は「痩せて命にかかわる」病気

厚生労働省が行った「糖尿病実態調査」によれば、2002年の時点で“糖尿病が強く疑われる人”が国内に約740万人、“糖尿病の可能性を否定できない人”を合わせると約1,620万人にも上ると言われています。もはや国民病でもある糖尿病ですが、そのイメージは「尿に糖が混ざる」「太る」「食事制限が厳しい」といった程度の人が、まだまだ多いようです。 しかし、糖尿病はひとことで言うと「痩せて命にかかわる」重大な病気です。糖尿病の糖とは、人間のエネルギー源である「ブドウ糖」のことを指します。食物から体に吸収されたブドウ糖は、肝臓でグリコーゲンとなって貯蔵されたり、そのまま血液中に溶け込んで、筋肉や細胞を動かすためのエネルギー源として供給されます。

血液中に溶け込んだブドウ糖のことを「血糖」と呼び、その濃度を表したものが「血糖値」です。正常な人の体では、食物を摂取すれば血糖が増え、さまざまなホルモンの働きによって、血糖値は一定の値で保たれています。しかし、糖尿病になるとうまく糖をエネルギーとして利用できなくなり、食物を摂取しないでも、血糖が増えてしまうのです。 尿に糖が混ざるのは、増えた糖が漏れでてきているためです。糖を利用できなくても、筋肉や細胞はエネルギーを使って活動しなければいけません。ブドウ糖に変わるエネルギーを作り出すための原料となるのが、「脂肪」や「タンパク質」です。脂肪やタンパク質がエネルギー源としてどんどん利用されていくので、脂肪組織や筋組織が減ってしまい、痩せるのです。

重要なキーワード「インスリン」

体内での糖の代謝とインスリンの作用血糖値を一定に保つために作用するホルモンのなかでも、上がりすぎた血糖値を下げる働きを担うのが「インスリン(インシュリンとも言います)」です。インスリンはすい臓のなかにある「ランゲルハンス島」と呼ばれる細胞群のなかの「β(ベータ)細胞」で作られ、貯蔵されたり分泌されたりします。
分泌されたインスリンはブドウ糖とともに血液中を流れ、筋肉などでブドウ糖をエネルギーに変える役目を果たしています。
また、ブドウ糖を脂肪に作り替えるのにも、インスリンは作用しています。糖を他の物質に変えることによって、血糖を減らしているのです。

インスリンが作られにくくなったり、正常に分泌されないことで不足し、筋肉などでのエネルギー化にうまく作用しなくなってしまうと、血液中のブドウ糖は使われないまま漂うことになります。そのために血糖値が上がり、糖尿病になるのです。

高血糖がもたらす恐ろしい症状

糖尿病はほとんど自覚症状がないまま、進行していきます。その結果、高血糖のまま放っておけば、非常に恐ろしい症状が突然現れることになります。
そのまま命を落としてしまいかねない「糖尿病性昏睡」は、急激な高血糖が続いた結果、発症します。ブドウ糖がエネルギーとして利用できないと、体は脂肪やタンパク質を分解してエネルギーに変えようとします。すると、分解の過程で「ケトン体」という物質が生まれ、大量に血液中に出てきます。ケトン体は酸性の物質であるため、本来はアルカリ性であるはずの血液が、酸性に変わっていきます。こうした状態になるころには、血糖値は400~500mg/dlを越えているでしょう。
血液が酸性に傾くと、体内のさまざまな臓器や脳への酸素供給が行えなくなり、呼吸障害を起こしたり、昏睡状態に陥ってしまうのです。

高血糖が何年も慢性的に続いていると、「糖尿病性昏睡」以外の危険な症状を引き起こします。それは、「合併症」と呼ばれるものです(合併症については6章~10章で詳しく解説します)。
合併症には、腎臓の機能低下による「腎症」、痛みを感じなくなったり、しびれたりする「神経障害」、失明の可能性のある「網膜症」、動脈硬化による「心筋梗塞」などがあります。なかでも腎症、神経障害、網膜症は、糖尿病の患者さんだけに起こりやすい「三大合併症」と呼ばれるものです。昏睡や合併症といった最悪の状態になる前に、病気の本質や危険さを知り、先手を打っておくことが、糖尿病対策の基本だと言えるでしょう。

(取材・子川 智)

次回のテーマは、なぜ糖尿病になるの?です。

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